2024年、医療機関の経営環境に変化が生じています。 帝国データバンクの調査によると、医療機関の休廃業・解散件数が年間で786件に達し、過去最多を記録しました。 これまで安定しているとされてきた医療機関の経営ですが、現在は多くの課題に直面しています。
特に整形外科においては、その傾向が顕著です。 かつては競合が少なく、収益性の高い診療科とされてきましたが、現在は構造的な変化が起きています。 今回は、整形外科における「廃業」の現状と、高騰する開業コストへの対策としての「事業承継」について解説します。
整形外科クリニックが閉院する背景には、単なる経営不振とは異なる事情があります。
帝国データバンクの2024年の集計データによれば、医療機関の「法的整理(倒産)」が31件であったのに対し、資産があるうちに自ら事業を畳む「休廃業・解散」は587件でした。 倒産件数の約18.9倍ものクリニックが、自主的な廃業を選択していることになります。
これは、債務超過で事業継続が不可能になる前に、「将来の収益性への不安」や「後継者不在」を理由に閉院を決断するケースが主流であることを示しています。 特にコロナ禍で実施された実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済開始時期と物価高騰が重なり、黒字経営であっても閉院を選択する経営者が増えています。
もう一つの要因は、経営者の高齢化です。 同調査において、休廃業した診療所経営者の年齢構成を見ると、70代以上が全体の54.6%を占めています。
整形外科は、内科などの他科と比較して医師の身体的負担が大きい診療科です。 整復処置や関節内注射、リハビリテーションの指示など、診療現場での動作が多いため、高齢になると診療の継続が困難になる傾向があります。 また、後継者不在率は全業種平均でも約50.8%と高く、親子承継が成立せずに閉院するケースが多く見られます。
閉院が増える一方で、新規での開業も困難になっています。 整形外科特有の資金面と人材面の問題が、開業の障壁を高めています。
整形外科の開業には、MRI(磁気共鳴画像装置)、CT、X線撮影装置といった大型医療機器を導入するケースが増えてきました。 加えて、電子カルテシステムやリハビリ機器の導入も必要となります。 昨今の円安や建築資材の高騰により、これらの初期投資額は増加傾向にあります。
テナント開業であっても、内装工事費や機器購入費を含めると、初期投資が1億円から2億円規模になるケースも少なくありません。 これだけの融資を受けるには確実な事業計画が必要であり、若手医師が新規開業に踏み切る際のリスクとなっています。 また、開業後も10〜15年のサイクルで機器の更新費用が発生するため、長期的な資金計画が求められます。
整形外科の収益において重要な割合を占めるのが「運動器リハビリテーション料」です。 この算定には、施設基準として理学療法士(PT)の雇用が必須となります。
しかし、厚生労働省の需給推計などのデータが示す通り、理学療法士の有資格者は増加しているものの、その多くは大病院や公的機関、都市部の施設へ就職する傾向があります。 個人のクリニック、特に地方や郊外では採用が難しく、人材紹介会社を利用しても確保できない事例が散見されます。 理学療法士が採用できなければリハビリテーション室が稼働できず、収益計画が大きく崩れるリスクがあります。
高額な初期投資と人材不足という課題に対し、合理的な選択肢として注目されているのが「第三者承継(M&A)」による開業です。
事業承継の主なメリットは、初期コストの圧縮です。 既存のMRIやレントゲン室、リハビリ室の内装などを引き継ぐことで、新規に開業する場合と比較して、数千万円単位で投資額を抑えることが可能です。
また、「患者基盤」と「スタッフ」を引き継げる点も重要です。 新規開業では認知度がゼロの状態から集患を行う必要がありますが、承継開業であれば、地域での認知度やカルテ(患者情報)を引き継げるため、初月から一定の収益が見込めます。 さらに、新規採用が困難な看護師や事務スタッフ、理学療法士の雇用を継続できる可能性がある点は、整形外科経営において大きな利点となります。
承継開業を成功させるためには、買い手(開業希望医)がクリニックの状況を冷静に見極める必要があります。
まず確認すべきは「立地と設備」です。 MRIなどの高額機器については、リース残債の有無や、更新時期が迫っていないかを確認する必要があります。
次に重要なのが「患者の通院動機」です。 患者が「院長の人柄」についている場合、院長交代による患者離れのリスクがあります。 一方、「リハビリ設備が充実している」「立地が良い」といった機能面で患者がついている場合は、経営者が代わっても患者が定着しやすい傾向にあります。 また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の状況も重要です。 紙カルテやアナログな管理を行っている場合、電子カルテへの移行にコストと労力がかかるため、承継後の統合プロセスを含めた検討が必要です。
整形外科の開業環境は変化しており、自主廃業の増加と新規開業コストの上昇という二つの課題が存在します。
こうした状況下において、既存の医療資源を活用する「事業承継」は合理的な戦略の一つです。 初期投資を抑制し、人材と患者基盤を確保した状態でスタートすることは、リスク管理の観点からも有効です。 これからの整形外科経営には、市場環境を踏まえた現実的な開業形態の検討が求められています。
2024年、医療機関の経営環境に変化が生じています。
帝国データバンクの調査によると、医療機関の休廃業・解散件数が年間で786件に達し、過去最多を記録しました。
これまで安定しているとされてきた医療機関の経営ですが、現在は多くの課題に直面しています。
特に整形外科においては、その傾向が顕著です。
かつては競合が少なく、収益性の高い診療科とされてきましたが、現在は構造的な変化が起きています。
今回は、整形外科における「廃業」の現状と、高騰する開業コストへの対策としての「事業承継」について解説します。
整形外科で増える廃業の実態
整形外科クリニックが閉院する背景には、単なる経営不振とは異なる事情があります。
倒産件数の約19倍にのぼる「自主廃業」
帝国データバンクの2024年の集計データによれば、医療機関の「法的整理(倒産)」が31件であったのに対し、資産があるうちに自ら事業を畳む「休廃業・解散」は587件でした。
倒産件数の約18.9倍ものクリニックが、自主的な廃業を選択していることになります。
これは、債務超過で事業継続が不可能になる前に、「将来の収益性への不安」や「後継者不在」を理由に閉院を決断するケースが主流であることを示しています。
特にコロナ禍で実施された実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済開始時期と物価高騰が重なり、黒字経営であっても閉院を選択する経営者が増えています。
院長の高齢化
もう一つの要因は、経営者の高齢化です。
同調査において、休廃業した診療所経営者の年齢構成を見ると、70代以上が全体の54.6%を占めています。
整形外科は、内科などの他科と比較して医師の身体的負担が大きい診療科です。
整復処置や関節内注射、リハビリテーションの指示など、診療現場での動作が多いため、高齢になると診療の継続が困難になる傾向があります。
また、後継者不在率は全業種平均でも約50.8%と高く、親子承継が成立せずに閉院するケースが多く見られます。
新規開業を難しくしているお金と人の問題
閉院が増える一方で、新規での開業も困難になっています。
整形外科特有の資金面と人材面の問題が、開業の障壁を高めています。
1億円超えも珍しくない高額な設備投資
整形外科の開業には、MRI(磁気共鳴画像装置)、CT、X線撮影装置といった大型医療機器を導入するケースが増えてきました。
加えて、電子カルテシステムやリハビリ機器の導入も必要となります。
昨今の円安や建築資材の高騰により、これらの初期投資額は増加傾向にあります。
テナント開業であっても、内装工事費や機器購入費を含めると、初期投資が1億円から2億円規模になるケースも少なくありません。
これだけの融資を受けるには確実な事業計画が必要であり、若手医師が新規開業に踏み切る際のリスクとなっています。
また、開業後も10〜15年のサイクルで機器の更新費用が発生するため、長期的な資金計画が求められます。
リハビリ運営に欠かせない理学療法士の採用難
整形外科の収益において重要な割合を占めるのが「運動器リハビリテーション料」です。
この算定には、施設基準として理学療法士(PT)の雇用が必須となります。
しかし、厚生労働省の需給推計などのデータが示す通り、理学療法士の有資格者は増加しているものの、その多くは大病院や公的機関、都市部の施設へ就職する傾向があります。
個人のクリニック、特に地方や郊外では採用が難しく、人材紹介会社を利用しても確保できない事例が散見されます。
理学療法士が採用できなければリハビリテーション室が稼働できず、収益計画が大きく崩れるリスクがあります。
「事業承継」という新しい開業の選択肢
高額な初期投資と人材不足という課題に対し、合理的な選択肢として注目されているのが「第三者承継(M&A)」による開業です。
既存の設備と患者を引き継ぐメリット
事業承継の主なメリットは、初期コストの圧縮です。
既存のMRIやレントゲン室、リハビリ室の内装などを引き継ぐことで、新規に開業する場合と比較して、数千万円単位で投資額を抑えることが可能です。
また、「患者基盤」と「スタッフ」を引き継げる点も重要です。
新規開業では認知度がゼロの状態から集患を行う必要がありますが、承継開業であれば、地域での認知度やカルテ(患者情報)を引き継げるため、初月から一定の収益が見込めます。
さらに、新規採用が困難な看護師や事務スタッフ、理学療法士の雇用を継続できる可能性がある点は、整形外科経営において大きな利点となります。
成功する承継物件を見極めるポイント
承継開業を成功させるためには、買い手(開業希望医)がクリニックの状況を冷静に見極める必要があります。
まず確認すべきは「立地と設備」です。
MRIなどの高額機器については、リース残債の有無や、更新時期が迫っていないかを確認する必要があります。
次に重要なのが「患者の通院動機」です。
患者が「院長の人柄」についている場合、院長交代による患者離れのリスクがあります。
一方、「リハビリ設備が充実している」「立地が良い」といった機能面で患者がついている場合は、経営者が代わっても患者が定着しやすい傾向にあります。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の状況も重要です。
紙カルテやアナログな管理を行っている場合、電子カルテへの移行にコストと労力がかかるため、承継後の統合プロセスを含めた検討が必要です。
まとめ
整形外科の開業環境は変化しており、自主廃業の増加と新規開業コストの上昇という二つの課題が存在します。
こうした状況下において、既存の医療資源を活用する「事業承継」は合理的な戦略の一つです。
初期投資を抑制し、人材と患者基盤を確保した状態でスタートすることは、リスク管理の観点からも有効です。
これからの整形外科経営には、市場環境を踏まえた現実的な開業形態の検討が求められています。