かつて「子供は風の子」と言われ、季節ごとの感染症や外傷の治療を中心に安定した需要が見込まれた小児科医療の現場は今、転換期を迎えています。 少子化の現実、パンデミックによる受診行動の変化、そして医師自身のキャリア観の変化。 これらが複雑に絡み合い、小児科クリニックの経営環境は大きく変化しているのです。
そこで今回は、厚生労働省の統計や民間調査機関のデータをもとに、小児科における「開業」と「廃業」の最前線をレポートし、これからの時代に求められる「事業承継」という新たな選択肢について考察します。
小児科の開業を取り巻く環境は、単なる「場所選び」の問題を超え、市場そのものが縮小する中での生存戦略が問われるようになっています。
日本の小児医療にとって最大の課題は、加速する少子化です。 厚生労働省の「人口動態統計」および総務省の「人口推計」によると、年間の出生数は80万人を大きく割り込み、減少の一途をたどっています。 ビジネスの視点で見れば、これはサービスを提供する対象となる市場規模(TAM)が、毎年物理的に消滅し続けていることを意味します。
また、かつてのような「冬はインフルエンザ、夏は手足口病」といった感染症の流行に頼る経営モデルも崩れつつあります。 コロナ禍を経て衛生観念が定着したことで、薄利多売型のモデルからの脱却が迫られているといえます。
では、実際にどれくらいのクリニックが新しく生まれているのでしょうか。 厚生労働省の「医療施設調査」や各種コンサルティング会社のデータを基にした推計によると、近年の小児科クリニックの新規開業数は年間400件から500件程度で推移しています。
具体的には、2018年には約480件の開業がありましたが、コロナ禍の不透明感が強かった2020年から2021年にかけては一時的に落ち込みました。 その後、2023年には推計で435件と回復傾向にありますが、以前ほどの勢いは見られません。
開業する「中身」と「場所」にも変化が起きています。
まず、小児科だけを専門とする「小児科単科」の割合が減っています。 データによれば、2018年には新規開業の31%が単科でしたが、2023年には25%まで低下しました。 代わって主流となっているのが、親世代も一緒に診察できる内科を併設した「ファミリークリニック」形態で、これが全体の約6割を占めるようになっています。
場所についても、かつてのような住宅街の戸建て診療所は減り、スーパーや駅前の商業ビル内にある「医療モール」へのテナント入居が集中しています。 これは、利便性を求める患者のニーズと、集客力を確保したい経営側の意図が合致した結果と言えます。
新規開業が慎重に行われる一方で、クリニックを閉じる「廃業」の動きは加速しています。
廃業数は年々増加しており、特に2020年以降そのペースが上がっています。 各種調査データの推計によると、2018年には約350件だった廃業・休止数は、2023年には約490件に達したと見られています。
市場からの退出(廃業や解散)が増えている背景には、コロナ禍による患者減だけでなく、別の問題も存在しています。
廃業理由の中で圧倒的多数を占めるのが「高齢化と後継者不在」です。 日本医師会のデータによると、診療所院長の平均年齢は60歳を超えており、高齢の医師が地域医療を支えている現状があります。
データによれば、廃業理由の約8割がこの「高齢化・後継者不在」によるものです。 たとえ経営が黒字で、地域から必要とされているクリニックであっても、引き継ぐ人がいないために閉院せざるを得ない「黒字廃業」が常態化しています。 医師の子息がいても、別の専門科を選んだり、勤務医を続けたりするケースが増えているためです。
建築費や医療機器の高騰により、ゼロからクリニックを作る新規開業のハードルは年々上がっています。 そこで今、注目されているのが「事業承継」による開業です。
前述の通り、廃業するクリニックの約8割は「高齢化や後継者不在」が理由であり、その多くは経営状態が悪化して潰れるわけではありません。 つまり、確かな患者基盤があるにもかかわらず、閉院しようとしている「優良なクリニック」が数多く存在しているのです。
これらを第三者が引き継ぐM&Aは、地域医療を守る手段であると同時に、開業希望者にとっては合理的な戦略となります。
事業承継で開業する最大のメリットは、初期投資とリスクを大幅に抑えられる点にあります。
既存の患者さん、熟練したスタッフ、そして医療機器や内装をそのまま引き継げるため、ゼロから集客や採用を行う必要がありません。 新規開業の場合、患者さんが定着して黒字化するまでに時間がかかりますが、承継開業であれば初月から収益が見込めるため、成功率が高くなる傾向にあります。
ただし、承継ならではの難しさもあります。 最も重要なのは「人」の問題です。 前院長と診療方針が違ったり、古くからいるスタッフとの関係がうまくいかなかったりするリスクがあります。
成功させるためには、事前の資産査定(デューデリジェンス)はもちろん、承継後の統合プロセス(PMI)を慎重に進めることが不可欠です。 また、単に引き継ぐだけでなく、Web予約やキャッシュレス決済の導入など、現代のニーズに合わせたアップデートを行うことが、長期的な成長の鍵となります。
データが示すのは、小児科医療市場が「拡大」から「成熟・再編」のフェーズへと完全に移行したという事実です。
少子化による市場縮小は避けられませんが、それは小児科医の役割がなくなることを意味しません。 むしろ、地域の子育てを支えるインフラとしての重要性は高まっています。
これからの開業においては、ゼロからの新規開業だけでなく、地域の医療資源を引き継ぐ「事業承継」も有力な選択肢の一つとなるでしょう。 変化を恐れず、時代に合わせた経営モデルへと転換できるクリニックだけが、次の時代を生き抜くことができるのです。
かつて「子供は風の子」と言われ、季節ごとの感染症や外傷の治療を中心に安定した需要が見込まれた小児科医療の現場は今、転換期を迎えています。
少子化の現実、パンデミックによる受診行動の変化、そして医師自身のキャリア観の変化。
これらが複雑に絡み合い、小児科クリニックの経営環境は大きく変化しているのです。
そこで今回は、厚生労働省の統計や民間調査機関のデータをもとに、小児科における「開業」と「廃業」の最前線をレポートし、これからの時代に求められる「事業承継」という新たな選択肢について考察します。
小児科クリニックの新規開業の動向
小児科の開業を取り巻く環境は、単なる「場所選び」の問題を超え、市場そのものが縮小する中での生存戦略が問われるようになっています。
少子化と環境の変化
日本の小児医療にとって最大の課題は、加速する少子化です。
厚生労働省の「人口動態統計」および総務省の「人口推計」によると、年間の出生数は80万人を大きく割り込み、減少の一途をたどっています。
ビジネスの視点で見れば、これはサービスを提供する対象となる市場規模(TAM)が、毎年物理的に消滅し続けていることを意味します。
また、かつてのような「冬はインフルエンザ、夏は手足口病」といった感染症の流行に頼る経営モデルも崩れつつあります。
コロナ禍を経て衛生観念が定着したことで、薄利多売型のモデルからの脱却が迫られているといえます。
年間の新規開業数の推移
では、実際にどれくらいのクリニックが新しく生まれているのでしょうか。
厚生労働省の「医療施設調査」や各種コンサルティング会社のデータを基にした推計によると、近年の小児科クリニックの新規開業数は年間400件から500件程度で推移しています。
具体的には、2018年には約480件の開業がありましたが、コロナ禍の不透明感が強かった2020年から2021年にかけては一時的に落ち込みました。
その後、2023年には推計で435件と回復傾向にありますが、以前ほどの勢いは見られません。
開業場所や形態の変化
開業する「中身」と「場所」にも変化が起きています。
まず、小児科だけを専門とする「小児科単科」の割合が減っています。
データによれば、2018年には新規開業の31%が単科でしたが、2023年には25%まで低下しました。
代わって主流となっているのが、親世代も一緒に診察できる内科を併設した「ファミリークリニック」形態で、これが全体の約6割を占めるようになっています。
場所についても、かつてのような住宅街の戸建て診療所は減り、スーパーや駅前の商業ビル内にある「医療モール」へのテナント入居が集中しています。
これは、利便性を求める患者のニーズと、集客力を確保したい経営側の意図が合致した結果と言えます。
増加する廃業とその背景
新規開業が慎重に行われる一方で、クリニックを閉じる「廃業」の動きは加速しています。
年間の廃業数の推移
廃業数は年々増加しており、特に2020年以降そのペースが上がっています。
各種調査データの推計によると、2018年には約350件だった廃業・休止数は、2023年には約490件に達したと見られています。
市場からの退出(廃業や解散)が増えている背景には、コロナ禍による患者減だけでなく、別の問題も存在しています。
高齢化と後継者不足
廃業理由の中で圧倒的多数を占めるのが「高齢化と後継者不在」です。
日本医師会のデータによると、診療所院長の平均年齢は60歳を超えており、高齢の医師が地域医療を支えている現状があります。
データによれば、廃業理由の約8割がこの「高齢化・後継者不在」によるものです。
たとえ経営が黒字で、地域から必要とされているクリニックであっても、引き継ぐ人がいないために閉院せざるを得ない「黒字廃業」が常態化しています。
医師の子息がいても、別の専門科を選んだり、勤務医を続けたりするケースが増えているためです。
「事業承継」による開業という選択
建築費や医療機器の高騰により、ゼロからクリニックを作る新規開業のハードルは年々上がっています。
そこで今、注目されているのが「事業承継」による開業です。
第三者承継の活用
前述の通り、廃業するクリニックの約8割は「高齢化や後継者不在」が理由であり、その多くは経営状態が悪化して潰れるわけではありません。
つまり、確かな患者基盤があるにもかかわらず、閉院しようとしている「優良なクリニック」が数多く存在しているのです。
これらを第三者が引き継ぐM&Aは、地域医療を守る手段であると同時に、開業希望者にとっては合理的な戦略となります。
承継開業のメリット
事業承継で開業する最大のメリットは、初期投資とリスクを大幅に抑えられる点にあります。
既存の患者さん、熟練したスタッフ、そして医療機器や内装をそのまま引き継げるため、ゼロから集客や採用を行う必要がありません。
新規開業の場合、患者さんが定着して黒字化するまでに時間がかかりますが、承継開業であれば初月から収益が見込めるため、成功率が高くなる傾向にあります。
成功させるためのポイント
ただし、承継ならではの難しさもあります。
最も重要なのは「人」の問題です。
前院長と診療方針が違ったり、古くからいるスタッフとの関係がうまくいかなかったりするリスクがあります。
成功させるためには、事前の資産査定(デューデリジェンス)はもちろん、承継後の統合プロセス(PMI)を慎重に進めることが不可欠です。
また、単に引き継ぐだけでなく、Web予約やキャッシュレス決済の導入など、現代のニーズに合わせたアップデートを行うことが、長期的な成長の鍵となります。
まとめ
データが示すのは、小児科医療市場が「拡大」から「成熟・再編」のフェーズへと完全に移行したという事実です。
少子化による市場縮小は避けられませんが、それは小児科医の役割がなくなることを意味しません。
むしろ、地域の子育てを支えるインフラとしての重要性は高まっています。
これからの開業においては、ゼロからの新規開業だけでなく、地域の医療資源を引き継ぐ「事業承継」も有力な選択肢の一つとなるでしょう。
変化を恐れず、時代に合わせた経営モデルへと転換できるクリニックだけが、次の時代を生き抜くことができるのです。