精神疾患を抱える患者数の増加に伴い、メンタルクリニックが社会の中で担う役割は、かつてないほど大きくなっています。 今回は、心療内科の新規開業が増え続けている一方で、水面下で起きている廃業の実態や、市場で起きている入れ替わりの構造について解説します。 また、こうしたトレンドを踏まえた上での心療内科の開業の選択肢もご紹介します。
精神科や心療内科を主とする診療所の数は、2010年代に入ってから一貫して増加する傾向にあります。 厚生労働省の調査などをもとにしたデータによると、2010年頃から診療所や施設数は増え続けており、2015年に施行されたストレスチェック制度の義務化や、近年のコロナ禍によるメンタル不調、いわゆる「コロナうつ」などが需要を後押しし、市場は拡大を続けています。 その結果、2023年には約7,500施設を超え、現在も高止まりの傾向を見せています。
一方で、市場から退出するクリニックも少なくありません。 帝国データバンクなどの調査によると、法的な整理を伴う「倒産」の件数は低い水準に留まっていますが、統計には表れにくい水面下での「自主廃業」や「解散」が急増しているとされています。 特に2018年頃からは、経営が黒字であるにもかかわらず閉院を選択する事例が目立ち始めており、実際の廃業数は統計上の数字以上であると考えられます。 全診療科における廃業率は年間3〜5%程度と言われていますが、心療内科においても同水準か、地域によってはそれを上回る廃業が観測されています。
心療内科の開業が増える背景には、経済的な合理性があります。 各種医療経営コンサルティングファームの資料などによると、一般的な内科クリニックの開業資金が5,000万円から1億円程度かかるのに対し、心療内科は1,500万円から3,000万円程度と、初期投資が圧倒的に低く抑えられます。 大型の医療機器を必要とせず、主な設備は診察机と電子カルテ程度で済むため、若手医師でも独立しやすいという特徴があります。 また、原価があまりかからず損益分岐点が低いため、1日あたり30人から40人程度の患者数でも採算が取れる高収益モデルを構築しやすい点も、開業を後押ししています。
一方で、廃業の最大の要因は経営不振ではなく、院長の高齢化と後継者がいないことです。 日本医師会のデータによると、診療所院長の平均年齢は60歳を超えています。 親子であっても子供が別の専門科に進むなどで承継できないケースが多く、黒字経営であっても閉院せざるを得ない「あきらめ廃業」が多発しています。 また、心療内科は「医師の人柄」に患者がつく傾向が強いため、他の診療科に比べて第三者への承継が成立しにくいという側面もあります。
都市部、特に駅周辺ではクリニックが乱立し、競争が激化しています。 Webマーケティングに失敗して新しい患者を獲得できず、固定費を賄えない「隠れ赤字」のクリニックが存在し、早期に撤退する事例も見られます。 その結果、「予約の取れない人気クリニック」と「患者が集まらないクリニック」の二極化が進行しています。
こうした承継問題の解決策として、M&Aによる第三者承継が徐々に一般的になりつつあります。 電子カルテや診療プロトコルの標準化を進めることで、医師が交代しても質の高い医療を継続できる仕組みが構築され始めています。 「組織としてのクリニック」を売買することで、新規開業のリスクを抑えて参入できる点は大きなメリットです。
前述した通り、院長の高齢化に伴い、経営状態が良好であるにもかかわらず後継者がいないために閉院を選択するケースが少なくありません。 事業承継は、こうした社会的損失ともいえる「もったいない廃業」を防ぐための有効な手段です。 承継によってクリニックが存続すれば、通院していた患者が突然かかりつけ医を失い「医療難民」になることを防げるだけでなく、長年勤務してきたスタッフの雇用も維持されます。 引退する院長にとっても、廃業コストをかけることなく、創業者利益を得て老後の資金に充てることができるため、地域、患者、そして医師自身の三方にとって合理的な選択肢と言えます。
また、個人開業医モデルから、医療法人グループによる多店舗展開や組織的な運営へとシフトする動きも見られます。 事務や採用業務を本部で一括管理することで経営効率を高め、医師は診療に集中できる環境を作ることが可能になります。 既存の患者基盤を引き継ぐことで、開業当初から安定した経営が可能になるため、新たな開業モデルとして注目されています。
心療内科市場はこれまで「低コストでの開業」と「需要の増加」を背景に拡大してきましたが、今後は「質の競争」へと移行し、専門性や経営力のないクリニックは淘汰される傾向になる可能性があります。 後継者不在による「黒字廃業」は地域医療にとって損失ですが、M&Aや組織化による事業承継が進むことで、解決の糸口が見えてくるでしょう。 これから参入を考える医師には、都市部の過当競争と地方の医療空白という構造変化を理解し、戦略的な意思決定が求められています。
精神疾患を抱える患者数の増加に伴い、メンタルクリニックが社会の中で担う役割は、かつてないほど大きくなっています。
今回は、心療内科の新規開業が増え続けている一方で、水面下で起きている廃業の実態や、市場で起きている入れ替わりの構造について解説します。
また、こうしたトレンドを踏まえた上での心療内科の開業の選択肢もご紹介します。
心療内科における新規開業と廃業の推移
2010年代から続く開業数の増加傾向
精神科や心療内科を主とする診療所の数は、2010年代に入ってから一貫して増加する傾向にあります。
厚生労働省の調査などをもとにしたデータによると、2010年頃から診療所や施設数は増え続けており、2015年に施行されたストレスチェック制度の義務化や、近年のコロナ禍によるメンタル不調、いわゆる「コロナうつ」などが需要を後押しし、市場は拡大を続けています。
その結果、2023年には約7,500施設を超え、現在も高止まりの傾向を見せています。
統計に見えにくい廃業・休止の実態
一方で、市場から退出するクリニックも少なくありません。
帝国データバンクなどの調査によると、法的な整理を伴う「倒産」の件数は低い水準に留まっていますが、統計には表れにくい水面下での「自主廃業」や「解散」が急増しているとされています。
特に2018年頃からは、経営が黒字であるにもかかわらず閉院を選択する事例が目立ち始めており、実際の廃業数は統計上の数字以上であると考えられます。
全診療科における廃業率は年間3〜5%程度と言われていますが、心療内科においても同水準か、地域によってはそれを上回る廃業が観測されています。
開業が増える理由と廃業が起きる背景
低コストで参入できる心療内科のメリット
心療内科の開業が増える背景には、経済的な合理性があります。
各種医療経営コンサルティングファームの資料などによると、一般的な内科クリニックの開業資金が5,000万円から1億円程度かかるのに対し、心療内科は1,500万円から3,000万円程度と、初期投資が圧倒的に低く抑えられます。
大型の医療機器を必要とせず、主な設備は診察机と電子カルテ程度で済むため、若手医師でも独立しやすいという特徴があります。
また、原価があまりかからず損益分岐点が低いため、1日あたり30人から40人程度の患者数でも採算が取れる高収益モデルを構築しやすい点も、開業を後押ししています。
院長の高齢化と後継者不足による閉院
一方で、廃業の最大の要因は経営不振ではなく、院長の高齢化と後継者がいないことです。
日本医師会のデータによると、診療所院長の平均年齢は60歳を超えています。
親子であっても子供が別の専門科に進むなどで承継できないケースが多く、黒字経営であっても閉院せざるを得ない「あきらめ廃業」が多発しています。
また、心療内科は「医師の人柄」に患者がつく傾向が強いため、他の診療科に比べて第三者への承継が成立しにくいという側面もあります。
都市部での競争激化と経営の二極化
都市部、特に駅周辺ではクリニックが乱立し、競争が激化しています。
Webマーケティングに失敗して新しい患者を獲得できず、固定費を賄えない「隠れ赤字」のクリニックが存在し、早期に撤退する事例も見られます。
その結果、「予約の取れない人気クリニック」と「患者が集まらないクリニック」の二極化が進行しています。
事業承継による開業という選択肢
第三者承継で開業するメリット
こうした承継問題の解決策として、M&Aによる第三者承継が徐々に一般的になりつつあります。
電子カルテや診療プロトコルの標準化を進めることで、医師が交代しても質の高い医療を継続できる仕組みが構築され始めています。
「組織としてのクリニック」を売買することで、新規開業のリスクを抑えて参入できる点は大きなメリットです。
「黒字廃業」を防ぎ、地域医療と雇用を守る
前述した通り、院長の高齢化に伴い、経営状態が良好であるにもかかわらず後継者がいないために閉院を選択するケースが少なくありません。
事業承継は、こうした社会的損失ともいえる「もったいない廃業」を防ぐための有効な手段です。
承継によってクリニックが存続すれば、通院していた患者が突然かかりつけ医を失い「医療難民」になることを防げるだけでなく、長年勤務してきたスタッフの雇用も維持されます。
引退する院長にとっても、廃業コストをかけることなく、創業者利益を得て老後の資金に充てることができるため、地域、患者、そして医師自身の三方にとって合理的な選択肢と言えます。
患者と信頼を引き継ぐ新しい開業モデル
また、個人開業医モデルから、医療法人グループによる多店舗展開や組織的な運営へとシフトする動きも見られます。
事務や採用業務を本部で一括管理することで経営効率を高め、医師は診療に集中できる環境を作ることが可能になります。
既存の患者基盤を引き継ぐことで、開業当初から安定した経営が可能になるため、新たな開業モデルとして注目されています。
まとめ
心療内科市場はこれまで「低コストでの開業」と「需要の増加」を背景に拡大してきましたが、今後は「質の競争」へと移行し、専門性や経営力のないクリニックは淘汰される傾向になる可能性があります。
後継者不在による「黒字廃業」は地域医療にとって損失ですが、M&Aや組織化による事業承継が進むことで、解決の糸口が見えてくるでしょう。
これから参入を考える医師には、都市部の過当競争と地方の医療空白という構造変化を理解し、戦略的な意思決定が求められています。