心不全患者の急増が懸念される「心不全パンデミック」や、医師の働き方改革など、循環器内科を取り巻く環境は現在変化の途中にあります。 この領域では現在、新規開業が増加する一方で、歴史あるクリニックが静かに幕を下ろすという「市場の新陳代謝」が加速しています。 今回は、厚生労働省の統計や各種調査データをもとに分析されたレポートに基づき、循環器内科の開業・廃業の最新動向と、これからの開業スタイルとしての「事業承継」の可能性について解説します。
循環器内科は、内科の中でも専門性が高く、また高齢化社会において極めて需要の高い領域です。 近年のデータを見ると、その開業数は堅調な増加トレンドにあります。
厚生労働省の医療施設調査や開設届出状況をもとにした推計によると、循環器内科(あるいは循環器を標榜する内科)の新規開業数は、年間400件から550件の間で推移しています。 特に注目すべきは近年の動きです。 2020年は新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込みましたが、その後はV字回復を見せています。 2023年には510件、2024年には535件の新規開業が示唆されており、明確な上昇傾向にあります。 この背景には、2024年から本格化した「医師の働き方改革」があります。 病院勤務医の時間外労働規制などが進む中で、自身の裁量で働ける環境を求めて開業を決意する医師が増えていることや、高齢者の増加に伴う循環器疾患への需要拡大が後押ししていると考えられます。
開業数が増える一方で、その中身は大きく変化しています。 かつては聴診器と心電計があれば開業できると言われた時代もありましたが、現在は設備の「ハイスペック化」が進んでいます。 近年の開業では、心機能解析ができる高性能な超音波診断装置や、ABI(血管年齢)検査装置などが標準装備になりつつあり、CTスキャナを導入するケースも増えています。 さらに、建築資材の高騰や円安による医療機器の値上がりが重なり、テナント開業であっても初期投資額は平均して8,000万円〜1億2,000万円に達しています。 これは一般的な内科の開業コスト(5,000万円〜7,000万円程度)を大きく上回る水準であり、資金計画のハードルは年々上がっています。
開業する場所(立地)のトレンドも変わってきています。 東京や大阪などの都心部はすでにクリニックが飽和状態にあり、競争が激化しています。 代わって収益を上げているのが、郊外のロードサイドや新興住宅地です。 こうした地域では、中核病院が病床を減らす中で、その受け皿が必要とされています。 広い駐車場を完備し、高度な検査まで完結できる「ミニ病院」のような大規模クリニックが、地域住民の支持を集める成功モデルとなっています。
新規開業が活況を呈する裏側で、廃業するクリニックも増え続けています。 しかしその理由は、経営が立ち行かなくなる「倒産」とは少し事情が異なるようです。
帝国データバンク等の調査データを基にした分析によると、循環器内科の廃業数は2015年頃から増加の一途をたどっています。 2024年には約380件の廃業・解散が報告されています。 この数字は、団塊の世代の院長たちが引退時期を迎えていることと連動しており、今後もこの傾向は続くと見られます。
廃業と聞くと「経営破綻」をイメージしがちですが、実態は異なります。 大多数は経営的には問題がない、あるいは黒字であるにもかかわらず、クリニックを閉じる選択をしているのです。 最大の理由は「後継者不在」です。 患者さんがいて、地域に必要とされているにもかかわらず、あとを継ぐ医師が見つからないために、余力を残したまま閉院せざるを得ない「黒字廃業」が主流となっています。
新規開業のコストが高騰する一方で、後継者がいないために閉じてしまうクリニックがある。 この「ミスマッチ」を解消する手段として注目されているのが、第三者による事業承継(M&A)での開業です。
前述の通り、現在ゼロから循環器内科を開業しようとすれば、1億円近い投資が必要になることも珍しくありません。 しかし、既存のクリニックを継承する場合、建物や内装、まだ使える医療機器などをそのまま引き継ぐことができれば、初期投資を大幅に抑えられる可能性があります。 もちろん、建物の老朽化によるリノベーション費用などがかかる場合もありますが、工夫次第で新規開業よりも低コストでスタートできる点は大きな魅力です。
承継開業の最大のメリットは、初日から患者さんがいる状態でスタートできることです。 新規開業の場合、認知されるまでに時間がかかり、経営が軌道に乗るまで数ヶ月から数年かかることもあります。 しかし、地域に根付いたクリニックを引き継げば、安定した通院患者層という基盤があるため、経営の立ち上がりが圧倒的に早くなります。 また、地域の事情に詳しいベテランスタッフを引き続き雇用できれば、採用難の時代において大きなアドバンテージとなります。
そして何より、事業承継は地域医療を守るという大きな社会的意義を持っています。 地方や郊外では、そのクリニックがなくなることで、心不全の患者さんが通院先を失い、路頭に迷ってしまう恐れがあります。 「廃業」ではなく「承継」を選ぶことは、医師自身のキャリア形成だけでなく、地域の医療インフラを維持・存続させることそのものです。 循環器内科という命に直結する分野だからこそ、既存の資源を活かすこの開業スタイルは、今後さらに重要性を増していくでしょう。
循環器内科の市場は、新規開業の「高機能化」と、既存医院の「後継者不足による廃業」という二つの波が同時に押し寄せています。 これから開業を目指す医師にとって、1億円を超える投資をしてゼロから立ち上げるのか、あるいは地域の実績あるクリニックを引き継ぐのか。 市場のデータを冷静に見極め、自身のビジョンに合った戦略的な選択が求められています。
心不全患者の急増が懸念される「心不全パンデミック」や、医師の働き方改革など、循環器内科を取り巻く環境は現在変化の途中にあります。
この領域では現在、新規開業が増加する一方で、歴史あるクリニックが静かに幕を下ろすという「市場の新陳代謝」が加速しています。
今回は、厚生労働省の統計や各種調査データをもとに分析されたレポートに基づき、循環器内科の開業・廃業の最新動向と、これからの開業スタイルとしての「事業承継」の可能性について解説します。
循環器内科の新規開業は増加傾向にある
循環器内科は、内科の中でも専門性が高く、また高齢化社会において極めて需要の高い領域です。
近年のデータを見ると、その開業数は堅調な増加トレンドにあります。
年間の開業数は右肩上がりで推移している
厚生労働省の医療施設調査や開設届出状況をもとにした推計によると、循環器内科(あるいは循環器を標榜する内科)の新規開業数は、年間400件から550件の間で推移しています。
特に注目すべきは近年の動きです。
2020年は新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込みましたが、その後はV字回復を見せています。
2023年には510件、2024年には535件の新規開業が示唆されており、明確な上昇傾向にあります。
この背景には、2024年から本格化した「医師の働き方改革」があります。
病院勤務医の時間外労働規制などが進む中で、自身の裁量で働ける環境を求めて開業を決意する医師が増えていることや、高齢者の増加に伴う循環器疾患への需要拡大が後押ししていると考えられます。
設備が高度になり初期費用が高騰している
開業数が増える一方で、その中身は大きく変化しています。
かつては聴診器と心電計があれば開業できると言われた時代もありましたが、現在は設備の「ハイスペック化」が進んでいます。
近年の開業では、心機能解析ができる高性能な超音波診断装置や、ABI(血管年齢)検査装置などが標準装備になりつつあり、CTスキャナを導入するケースも増えています。
さらに、建築資材の高騰や円安による医療機器の値上がりが重なり、テナント開業であっても初期投資額は平均して8,000万円〜1億2,000万円に達しています。
これは一般的な内科の開業コスト(5,000万円〜7,000万円程度)を大きく上回る水準であり、資金計画のハードルは年々上がっています。
都心部から郊外へ開業場所がシフトしている
開業する場所(立地)のトレンドも変わってきています。
東京や大阪などの都心部はすでにクリニックが飽和状態にあり、競争が激化しています。
代わって収益を上げているのが、郊外のロードサイドや新興住宅地です。
こうした地域では、中核病院が病床を減らす中で、その受け皿が必要とされています。
広い駐車場を完備し、高度な検査まで完結できる「ミニ病院」のような大規模クリニックが、地域住民の支持を集める成功モデルとなっています。
後継者不足による廃業が増加
新規開業が活況を呈する裏側で、廃業するクリニックも増え続けています。
しかしその理由は、経営が立ち行かなくなる「倒産」とは少し事情が異なるようです。
廃業数は年々増加し続けている
帝国データバンク等の調査データを基にした分析によると、循環器内科の廃業数は2015年頃から増加の一途をたどっています。
2024年には約380件の廃業・解散が報告されています。
この数字は、団塊の世代の院長たちが引退時期を迎えていることと連動しており、今後もこの傾向は続くと見られます。
経営難ではなく「黒字廃業」が主流
廃業と聞くと「経営破綻」をイメージしがちですが、実態は異なります。
大多数は経営的には問題がない、あるいは黒字であるにもかかわらず、クリニックを閉じる選択をしているのです。
最大の理由は「後継者不在」です。
患者さんがいて、地域に必要とされているにもかかわらず、あとを継ぐ医師が見つからないために、余力を残したまま閉院せざるを得ない「黒字廃業」が主流となっています。
事業承継(M&A)による開業という選択肢
新規開業のコストが高騰する一方で、後継者がいないために閉じてしまうクリニックがある。
この「ミスマッチ」を解消する手段として注目されているのが、第三者による事業承継(M&A)での開業です。
ゼロから開業するよりもコストを抑えられる
前述の通り、現在ゼロから循環器内科を開業しようとすれば、1億円近い投資が必要になることも珍しくありません。
しかし、既存のクリニックを継承する場合、建物や内装、まだ使える医療機器などをそのまま引き継ぐことができれば、初期投資を大幅に抑えられる可能性があります。
もちろん、建物の老朽化によるリノベーション費用などがかかる場合もありますが、工夫次第で新規開業よりも低コストでスタートできる点は大きな魅力です。
既存の患者さんやスタッフを引き継げる
承継開業の最大のメリットは、初日から患者さんがいる状態でスタートできることです。
新規開業の場合、認知されるまでに時間がかかり、経営が軌道に乗るまで数ヶ月から数年かかることもあります。
しかし、地域に根付いたクリニックを引き継げば、安定した通院患者層という基盤があるため、経営の立ち上がりが圧倒的に早くなります。
また、地域の事情に詳しいベテランスタッフを引き続き雇用できれば、採用難の時代において大きなアドバンテージとなります。
地域医療を守るための新しい開業スタイル
そして何より、事業承継は地域医療を守るという大きな社会的意義を持っています。
地方や郊外では、そのクリニックがなくなることで、心不全の患者さんが通院先を失い、路頭に迷ってしまう恐れがあります。
「廃業」ではなく「承継」を選ぶことは、医師自身のキャリア形成だけでなく、地域の医療インフラを維持・存続させることそのものです。
循環器内科という命に直結する分野だからこそ、既存の資源を活かすこの開業スタイルは、今後さらに重要性を増していくでしょう。
まとめ
循環器内科の市場は、新規開業の「高機能化」と、既存医院の「後継者不足による廃業」という二つの波が同時に押し寄せています。
これから開業を目指す医師にとって、1億円を超える投資をしてゼロから立ち上げるのか、あるいは地域の実績あるクリニックを引き継ぐのか。
市場のデータを冷静に見極め、自身のビジョンに合った戦略的な選択が求められています。