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  • 美容皮膚科の開業の選択肢と集患のための情報発信のポイントとは

    これから美容皮膚科の開業を目指すドクターの皆さんは、期待に胸を膨らませる一方で、「どうやって患者さんに来てもらえばいいんだろう?」「ウェブサイトやSNSでの情報発信は、どんなルールに気をつければいいの?」といった不安も抱えているのではないでしょうか。
    特に美容医療は、法律による広告のルールが細かく定められており、知らず知らずのうちに違反してしまうリスクも考えられます。
    大切なのは、派手な宣伝で患者さんを集めることではありません。
    あなたの専門性や治療にかける想いを誠実に伝え、深い信頼関係を築くことです。
    この記事では、患者さんの心に届く情報発信の考え方や、守るべきルール、そして開業時のリスクを減らすための一つの選択肢について、一緒に考えていきたいと思います。

     

    美容皮膚科の新規集患で効果的な情報発信とは?

     

    専門性や治療内容の詳細を発信するコンテンツが有効

     

    美容医療を検討している患者さんが一番知りたいのは、セールストークではなく、「自分にとってどんな選択肢があって、どんな結果が期待できるのか」という正確な情報です。
    高額で、ご自身の身体に関わることだからこそ、安心して判断できる材料を求めています。

    ですから、情報発信で最も効果的なのは「売ること」ではなく「教えること」です。
    例えば、先生ご自身の経歴や、なぜその治療法を選んでいるのかといった理念を語ること。
    あるいは、専門用語をできるだけ使わずに、イラストなどを交えながら治療の仕組みを解説するコンテンツも有効です。

     

    ホームページやSNSなどターゲットに合わせた媒体を選ぶ

     

    情報発信は、一つの媒体で完結させるのではなく、それぞれの特性を活かして連携させることが重要です。
    これを、自転車の車輪に例えて「ハブ&スポーク」モデルと呼んだりします。

    まず、全ての情報の中心拠点(ハブ)となるのが、クリニックの公式ウェブサイトです。
    ここには、あなたのクリニックの理念や治療メニュー、料金、リスクといった全ての情報を網羅的に、そして丁寧に掲載します。
    信頼感のあるデザインを心がけ、あなたの専門性と誠実さが伝わる場所にしましょう。

    そして、ウェブサイトへ人々を導くための入り口(スポーク)がSNSです。
    例えば、Instagramは、院内の雰囲気や施術の症例写真などを視覚的に伝え、20〜40代の女性に親近感を持ってもらうのに最適です。
    YouTubeでは、先生自らがカメラの前に立ち、治療についてじっくり解説することで、専門性と人柄を深く伝え、絶大な安心感を与えられます。
    さらに、TikTokのような短い動画は、10代、20代の若い世代にクリニックの存在を知ってもらうきっかけ作りに役立ちます。

    このように、各SNSの役割を決めて、「TikTokで初めて知る→Instagramで興味を持つ→YouTubeで深く理解する→公式サイトで詳細を確認して予約する」といった、患者さんの気持ちの流れを設計することが、現代の集患戦略の鍵となります。

     

    医療広告ガイドラインで注意すべき点は?

     

    「No.1」や「必ず治る」といった誇大表現は禁止されています

     

    美容皮膚科の情報発信で絶対に避けて通れないのが、「医療広告ガイドライン」です。
    これは、不適切な広告によって患者さんが不利益を被らないように厚生労働省が定めたルールで、違反すると罰則も科されます。
    クリニックのウェブサイトやSNSでの発信も、患者さんを呼び込む意図があれば、すべてこのガイドラインの対象となります。

    特に注意したいのが、患者さんに誤解を与えかねない表現です。
    例えば、「地域No.1」「日本一の実績」といった他のクリニックと比較して優れていると示す表現は、たとえ事実であっても原則禁止されています。
    同様に、「モデルの〇〇さんも推薦」といった、著名人の人気を利用して集患することも認められていません。

    また、「必ず治ります」「絶対に安全です」といった、効果や安全性を100%保証するような表現は「誇大広告」にあたります。
    医療に「絶対」はないからです。
    「お手軽なプチ整形」のように、医療行為の重大さを軽く見せるような表現も、安易な受診を促すとして規制の対象となるので注意が必要です。

     

    治療のリスクや副作用、標準的な費用を明記する必要がある

     

    医療広告ガイドラインには、「限定解除」という少し複雑ですが非常に重要な概念があります。
    これは、本来は広告が認められていない治療の効果や詳しい内容について、特定の条件を満たすことで、患者さんが自ら情報を取りに来るウェブサイトなどに限り、例外的に掲載が許可されるというものです。

    その条件とは、主に以下の3つです。

    1. どのような治療を行ったかという「治療内容」
    2. その治療にかかる「標準的な費用」
    3. 考えられる「主なリスクや副作用」

    これらの情報を、伝えたい内容のすぐ近くに、患者さんが簡単に見つけられるような形で記載する必要があります。
    例えば、ある治療法を紹介するページの隅に、小さな文字で書いたり、別のページへのリンクで済ませたりするのは認められていません。
    このルールは、患者さんが十分な情報を得た上で判断できるようにするための、いわば「情報提供の作法」だと理解してください。

     

    皮膚科の医院継承で集患の広告違反リスクをなくせるか?

     

    既存患者を引き継ぐため、過度な新規集患が不要になる

     

    ゼロからクリニックを立ち上げる新規開業では、どうしても「早く患者さんを集めなければ」という焦りが生まれがちです。
    この焦りが、時に医療広告ガイドラインの遵守を難しくさせる一因にもなり得ます。
    そこで、この課題に対する強力な解決策として「医業承継(医院継承)」という選択肢があります。

    医業承継の最大のメリットは、すでに来院している患者さんをそのまま引き継げることです。
    開業当初から安定した患者さんの獲得に繋がり、新規開業のようにゼロの状態からスタートする精神的なプレッシャーがありません。

    その結果、大規模で積極的な広告キャンペーンを打つ必要性が低くなります。
    集患の目標が、新たな患者さんを「獲得」することから、既存の患者さんとの関係を「維持」することへとシフトするため、余裕を持って、誠実な情報発信にじっくり取り組むことができます。
    これは、広告違反のリスクを根本から低減させることにつながるのです。

     

    設備やスタッフも継承でき、安定した経営基盤から始められる

     

    医業承継は、患者さんだけでなく、クリニックの運営に必要な有形無形の資産を引き継げる点も大きな魅力です。
    高額な医療機器や内装、土地建物などをそのまま活用できるため、新規開業に比べて初期投資を劇的に抑えることができます。

    そして、何にも代えがたいのが、業務に精通した看護師や受付スタッフの存在です。
    彼ら・彼女らは、日々の業務の流れを熟知しているだけでなく、既存の患者さんとの信頼関係もすでに築いています。
    新しい院長は、スタッフの採用や教育に頭を悩ませることなく、診療と、患者さんとの新たな関係づくりに集中できるのです。

    こうした財務的・人的な安定基盤は、クリニック経営に大きな余裕、いわば「コンプライアンス・バッファ」をもたらします。
    無理な増収策に走る必要がなくなるため、結果として広告ガイドラインを遵守した、堅実な経営判断をしやすくなります。

     

    補足

     

    医院継承の際、法律(個人情報保護法)上は、患者さん一人ひとりの同意を得なくても、事業の引き継ぎの一環としてカルテを承継することが認められています。
    しかし、法律で認められているからといって、何も説明せずにカルテを使い始めるのは、信頼関係の観点からあまりお勧めできません。
    やはり、前任の院長から「今後は〇〇先生が責任を持って診療とカルテの管理を行います」といった告知をしてもらったり、ウェブサイトや院内掲示でその旨をきちんと知らせたりするなど、透明性を保つ工夫が大切です。
    こうした細やかな配慮が、患者さんの安心につながり、スムーズな継承を後押ししてくれます。

     

    美容皮膚科の発信事例

     

    最後に、SNSで効果的な情報発信をしている美容皮膚科の事例を3つご紹介します。

     

    レナトゥスクリニック

     

    レナトゥスクリニックは、「正しい情報」を徹底的に提供することで、患者からの高い信頼を勝ち取っている好例です。
    情報発信の核は「販売」ではなく「教育」にあります。
    ウェブサイトでは、各治療法について理論的かつ詳細に解説し、患者が深く理解し、納得して治療を選べるようなコンテンツ作りに注力しています。
    この「正しい情報を届ける」という姿勢は、誇大広告などを禁じる医療広告ガイドラインの精神と本質的に合致しており、ルールを守りながら信頼を築くという理想的なモデルを実践しています。

    ・公式サイト: https://renatusclinic.jp/](https://renatusclinic.jp/

     

    品川美容外科・品川スキンクリニック

     

    品川美容外科・品川スキンクリニックのTikTokアカウントは、流行の移り変わりが激しいショート動画の世界で、いかにコンプライアンスを遵守し、効果的な発信を行うかという点で見事な手本を示しています。
    彼らは、「#毛穴」や「#ニキビ跡」といったユーザーの悩みに応える形で治療法を紹介する動画を数多く投稿しています。
    注目すべきは、ほぼ全ての動画の説明文に、治療名、副作用・リスク、費用などが詳細に記載されている点です。
    これは、ビフォーアフター写真などで求められる「限定解除要件」を、TikTokという媒体の特性に合わせて適応させた、極めて高度な実践例と言えます。

    ・公式サイト(品川スキンクリニック): https://shinagawa-skin.com/](https://shinagawa-skin.com/
    ・公式TikTok: https://www.tiktok.com/@shinagawa.biyou](https://www.tiktok.com/@shinagawa.biyou

     

    湘南美容クリニック

     

    業界最大手の湘南美容クリニックは、YouTubeやInstagramといった複数のメディアを駆使し、圧倒的な情報量で幅広い層にアプローチしています。
    特にYouTubeでは、患者が実際に施術を受け、ダウンタイムの様子までを追う「密着ドキュメンタリー」形式の動画が人気です。
    これは、施術のリアルな過程を見せることで、患者の期待値を適切に調整し、安心感を与える効果があります。
    また、その知名度の高さから、多くの人に選ばれているという事実そのものが「社会的証明」として機能し、さらなる信頼を生み出しています。
    もちろん、動画の説明欄などではリスクや費用の情報開示が徹底されており、コンプライアンスを重視する姿勢も明確です。

    ・公式サイト: https://www.s-b-c.net/](https://www.s-b-c.net/
    ・公式YouTube: https://www.youtube.com/@SBCofficial](https://www.youtube.com/@SBCofficial
    ・公式Instagram: https://www.instagram.com/sbcbeauty_official/](https://www.instagram.com/sbcbeauty_official/

     

    補足

     

    湘南美容クリニックの事例で「社会的証明」という言葉を使いました。
    これは、「多くの人が支持したり、行ったりしていることは、きっと正しいのだろう」と、自分の判断を周囲の行動に委ねてしまう人間の心理的な傾向を指す言葉です。
    例えば、行列ができているラーメン屋さんを見ると「きっと美味しいに違いない」と感じたり、レビューサイトで評価の高い商品を選んだりするのも、この社会的証明の一種です。
    美容クリニックの文脈では、「多くの症例実績」や「たくさんの患者さんの声(※広告への掲載は禁止)」、あるいはクリニックの知名度そのものがこの役割を果たし、潜在的な患者さんに「ここなら安心できそう」と感じさせる強力な要因になるのです。

     

    まとめ

     

    美容皮膚科を開業し、多くの患者さんに選ばれるクリニックになるための道のりは、決して平坦ではないかもしれません。
    しかし、情報発信で本当に大切なことは、今も昔も変わりません。
    それは、優れた技術を磨くことと同じくらい、患者さん一人ひとりとの間に、誠実さに基づいた深い信頼関係を築くことです。

    今回ご紹介した内容の要点は、以下の3つです。

    ・情報発信の目的は「販売」ではなく「教育」です。
    あなたの専門性や治療哲学、そしてリスクも含めた透明性の高い情報を届けることが、何よりの信頼につながります。

    ・医療広告ガイドラインは、窮屈な制約ではなく、むしろ誠実なクリニックであることを証明するための「攻めの戦略」と捉えましょう。
    ルールを忠実に守る姿勢が、患者さんの安心を生み出します。

    ・そして、開業時の大きな課題である「ゼロからの集患」とそれに伴う「広告違反のリスク」を根本から減らすために、「医業承継」という選択肢をぜひ真剣に検討してみてください。

    この記事が、これから素晴らしいスタートを切るドクターの皆さんにとって、少しでも道しるべとなれば幸いです。
    あなたの想いが、情報を求める多くの患者さんに届くことを心から応援しています。

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